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第58話 毒沼

last update Last Updated: 2025-06-17 18:35:45

 それから数日かけて準備をして、私たちはお城を出発した。

 メンバーは人間組三人、グラン、ゴードンと他、魔族の小隊が十数人だ。

「魔物との戦いはなるべく避ける。手早く目的地まで行って、確かめたらすぐに引き返すからね」

「分かったわ、グラン」

 お城の前の広場でグランは一人、進み出た。

 どうするのかと思っていたら、ぶわり、彼の輪郭が闇に溶ける。

 数秒後には銀のドラゴンが四肢で立っていた。

 他の魔族たちも半数ほどが変身している。鳥や飛竜、翼を持つ恐竜(プテラノドン?)みたいな人までいろいろだ。

 皆、翼を持っていた。飛んでいくつもりなんだ。

「すげぇな……。姿形が変わるだけじゃなく、魔力量も増えてやがる」

 クィンタの呟きを拾ったグランが、竜の大きな口で答えた。

「どちらかというと、獣の姿が僕らの本性だからね。集団生活や道具を使うのに便利だから、人の姿を取っているけど」

 ゴードンがグランの背中に飛び乗って、私を引き上げてくれた。

 ベネディクトとクィンタが続こうとしたところ、グランはちょっと嫌そうな顔をしていたが、結局乗せてくれた。

「さあ、行こう」

 グランが大きく羽ばたくと体が宙に浮いた。

 他の魔族たちも仲間の背に乗ったり、足につかまったりしている。

 グランを先頭に渡り鳥のようなV字の隊列を組んで、北へ飛んでいった。

 グランの背中から地上を見下ろすと、森はやがて平地へと変わっていく。少し向こうには小高い山も見える。

 草原と森を貫くように流れる川は、どこか青黒い色をしている。瘴気とよく似た色だった。土地だけでなく水も汚染するとは……。

「もうすぐだよ」

 お城から出てまだ一時間も経っていないが、目的地は近いようだ。幸い、魔物と遭遇はしなかった。

 グランは平原の開けた場所に着地した。魔族たちが続く。

「――あそこだ」

 グランはドラゴンの姿のままで視線を向けた。

 その先は沼沢地のようになっ
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